principleQ & A│トランジスタ技術12月号│応用磁気学会誌

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アモルファス材料のMI効果を利用した方位センサ

ワンチップ電子コンパスICの概要と使い方

「トランジスタ技術」誌 2003年12月号掲載記事 概要

トランジスタ技術」誌の特集「新時代のセンサ入門」にMIセンサが取上げられました.是非雑誌をお手にとってご覧ください.なお,雑誌版はいくつか誤植などがありますので以下に訂正します.

正誤表および注意事項
(1)表1「磁気センサの種類と比較性能」は引用文献であり,記載の数字は目安で必ずしも個々の製品のスペックを反映したものではありません.
(2) 表3「主な仕様」の動作範囲,出力直線性,感度は当ページの表3に記載したものが正しい値です.
(3) 図13「X-Y切替のタイミングチャート」の横軸はsecではなくmsecが正しい表記です.

概要

電子コンパスは,地磁気を検知して方位を求めるためのセンサです.アイチ・マイクロ・インテリジェント株式会社製の電子コンパスIC「AMI201」は、新しい磁気検出原理であるMI効果を応用したもので,センサ素子にアモルファス材料を用いています1ミリガウスの微小磁界を検知し、世界最小サイズで携帯端末を初めとするモバイル機器のコンパスソリューションに最適です.
 本項ではまず,MIセンサの原理を説明し,ひきつづいて電子コンパスIC AMI201について説明します.


■MIセンサとは

●アモルファス磁性金属ワイヤとMI効果
MIセンサは,アモルファス磁性金属ワイヤのMI効果(Magneto-impedance Effect)を応用した磁気センサです.アモルファスとは,非晶質という意味で,通常の金属とは異なって結晶構造をもたず,内部構造が一様で理想的な軟磁気特性を示します.このため夢の合金と言われてきました.
MI効果は,このアモルファスワイヤにパルス電流を通電したときのインピーダンスが,微小な外部磁界により極めて大きな変化を示す現象です.この効果は1993年に名古屋大学の毛利佳年雄教授によって発見され,磁気センサシステムを一新する可能性を秘めており,国際的に広く研究開発が展開されています.


●MIセンサの原理
パルス電流を通電したときのアモルファスワイヤのインピーダンスZは,図1の式で示されます.透磁率μは軸方向の外部磁界Hexによって変化するので,Zの変化から外部磁界の強さを検知することができます.MI効果がアモルファスワイヤできわめて顕著に現れる理由は,ワイヤ表面のスピンの配列が周方向に並んでいるという特殊な磁区構造にあります.このため円周方向の透磁率μがもっとも大きく変化してMI効果も最大となります.
 ワイヤのインピーダンスそのものは外部磁界の極性に対して対称に変化するため、磁界の方向の判別ができず、しかも直線出力を得にくいという欠点があります.そこでアモルファスワイヤにピックアップコイルを巻いて誘導電圧を検知すると,式の虚数成分のみを検知することになり,出力特性は直線的になり、磁界の方向の正負判定も可能となります。
 この検出方式を概念的に図2に示します.ワイヤの通電前に円周方向に向いていた電子スピン(A)が,外部磁界の印加により傾きます(B).パルス電流を通電すると,電流の作る円周磁界により電子スピンが回転し一方向に揃います(C).この回転の際に生じる,ワイヤの軸方向の磁気ベクトル変化の速度に比例した誘起電圧が,ピックアップコイルに発生します.現在商品化されているアモルファスMIセンサはこのピックアップ検出方式を採用しています.



●MIセンサ素子
 MIセンサ素子はアモルファスワイヤの回りに,ピックアップコイルを巻いた構造となります.素子の一例を図3に示します.外径20μmφ,長さ1.5mmのアモルファスワイヤの周りにコイルが巻かれているのがわかります.


●電子回路
 MIセンサの回路(図4)は,パルス発振回路,アモルファスワイヤとピックアップコイル,および信号処理回路から構成します.
 まずパルス発振回路で所定の特性をもったパルス電流を発生させ,アモルファスワイヤに通電します.この時ピックアップコイルに発生する誘起電圧は,外部磁界の強さに比例するので、その電圧をピークホールドした後差動アンプで増幅して出力すると、磁界の測定が可能となります。


MIセンサの種類

 現在,基板実装タイプとICタイプの製品が提供されています(図5).基板実装タイプには,出力信号をMIセンサへフィードバック・コイルで負帰還することで10kHzの周波数領域まで精密に測定が可能な高リニアリティタイプ(図5(A))と,負帰還をもたず100kHzの高い周波数特性ををもつ高応答タイプ(図5(B))があります.高リニアリティタイプの出力特性を図6に,高応答タイプの周波数特性を図7に示します.
 ICタイプとしては本項の主題である電子コンパスAMI201(図5(C))が商品化されています.
 センサの測定レンジは,±3ガウス、±10ガウス、±20ガウスから±40ガウスの各種のタイプのものが用意されています.


●各種磁気センサとMIセンサの比較

 現在使用されている磁気センサは構造・性能が多岐にわたりますが,もっともポピュラーで安価なホール素子や,HDDのヘッドやエンコーダに使用されるMR素子が良く知られた小型センサです.磁気ヘッド用としては最近GMRセンサが開発されています.また,従来地磁気レベルの微弱な一様磁気検出にはフラックスゲートセンサが使われていました.これらのセンサをMIセンサとともに比較すると表1のようになります.
 MIセンサは,感度がホールセンサの1万倍以上優れ,量産性,コスト,小型の点では同等の優れたセンサです. 


■電子コンパスIC AMI201の特徴と動作

AMI201は,上記のMIセンサ素子を2個直交するように配置し,専用の信号処理ICとともにパッケージしたデバイスです.
特長としては,3.1×3.4×0.8mmの世界最小サイズ,携帯電話などモバイル機器に組込み可能な低消費電力(6mW),正確な方位検出をもたらす高感度・低ノイズ,10kHzの高い応答性が挙げられます.ちなみに,この製品は画期的な電子コンパスとして,昨年ボストンで開催されたセンサ技術展で,Best of Sensors Expo Silver Awardを受賞しています(図8).
図9,10に電子コンパスAMI201の外観およびパッケージの外形,表2に端子説明を示します.


●電気的特性
AMI201は,地磁気の水平成分のX 方向とY 方向の成分を検出し,その大きさに比例したアナログ電圧を出力します.磁界がゼロのときの原点出力は電源電圧の2分の1になります.出力信号はOUT端子ひとつで,X方向とY方向の出力は切替端子への入力に応じて選択して出力します.推奨電源電圧は2.6Vですが, 2.5〜3.6Vまで動作可能です.
IC回路は,一つの信号処理回路でX軸とY軸の二つのセンサの出力を切替えながら処理します.切替え方式を採用することで,ICサイズの小型化、低コスト化および低消費電力化を実現しています.内部ブロック図を図11に示します.


主な出力特性を,表3に示します.測定レンジは±3ガウス(0.3ミリテスラ),直線性はフルスケールの1.3%と良好です.感度は200mV/ガウスです.周波数応答は10kHzで,きわめて短時間での地磁気検出が可能です.ヒステリシスについては,測定磁界が地磁気の±300ミリガウス程度の場合には,ノイズレベル以下となります.

以上のように,MIセンサは,簡単な回路で微小な磁界を高精度に検出できるため,地磁気のような微小磁界を測定する電子コンパス用の磁気センサとしては最も適したセンサであると言えます.


■AMI201の使い方

●基本的な回路
 図12はAMI201とパソコンを接続するためのUSBインタフェース電子回路です.USBインタフェースには10bitのA/Dコンバータ内蔵マイクロプロセッサが搭載されています.なお,A/Dコンバータの分解能は,必要とされる方位の分解能によって決定します.方位角として1°の分解能が必要な場合は10ビット,4°なら8ビットで十分です.

AMI201のXYin端子に切替信号が印加されるとそれに同期して交互にX軸,Y軸の磁気信号を出力します.AMI201はセンサの駆動のため内部に発振器を内蔵していますので,安定した動作を保持するためにVDD-GND1端子間に0.1μF以上のセラミックコンデンサを接続してください.また,出力リプルを減らすために OUT端子と次段入力の間にローパスフィルタを挿入したほうが良いでしょう.電源はUSBユニットの電源を安定化して使用しているのでコンデンサは極力周波数特性の良いものを使用するのがよいでしょう.
 X軸とY軸の切替タイミングの例を図13に示します.X軸とY軸の出力をマイクロプロセッサが読み出すのに1サイクル1msecでも動作可能ですが、ここでは90msecとしています.X軸とY軸の出力読出しは入力信号の切替後0.2msecで安定します。
 ここで示したUSB評価キットは、X軸とY軸の出力読出しに15msec,RS232Cの出力に15msecを当てています. X軸とY軸の出力読出しに15msecとしたのは、128回の信号を取り込み平均化処理をするためです。


●方位の計算原理
 AMI201が検出する地磁気のX 方向の成分をHx,Y 方向の成分をHy とすると,方位角θとの関係は図14中の式のようにHy/Hx=tanθで表されます.従って方位角は,θ=tan-1(Hy/Hx)で求めることができます.θが45°を超えるとcotanθから算出すると計算精度の低下が避けられます.方位がどの象限にあるかは,HxとHyの正負の符号から判定します.なお,ここでいう方位角は磁北に関した角度であり,真の北とはややずれ(偏角と言い,日本では西に約7°)があります.偏角の詳しい情報については国土地理院のホームページなどをご参照ください.


 ソフトウェアで方位計算を行う際の大まかなフローを図15に示します.この中で,オフセットとゲインの補正については次項の「キャリブレーションについて」で詳述します.
 なお,以上の回路とサンプルソフトウェアの付属したAMI201専用評価キットが,アイチ・マイクロ・インテリジェント株式会社から発売されています(\82,000,http://www.aichi-mi.com/参照).


●キャリブレーション(出力補正)

 正しい方位を算出するために,X軸とY軸のセンサの補正が必要です.この補正は,ソフトウェア的に行い,コンパスを実際使用する場所で簡単な操作によって行います.
 キャリブレーションの目的は,X軸とY軸の出力をそろえるためのゲイン補正と,周囲の磁界が0の時の原点を補正するオフセット調整の二つに分かれます.
 具体的には,電子コンパスを搭載した機器を地磁気中で水平に保持しながら1回転させる間に十分な測定点をサンプリングします.各軸の出力は図16のようにサインまたはコサイン曲線となります.この曲線の最大値と最小値をもとめ,図中の式でオフセットとゲインの値を求めます.この値をメモリーに保存しておき,以後はこの値を使って方位を計算します.


●方位の誤差要因について

 キャリブレーションを行った電子コンパスも,使用条件によっては方位の誤差を生じることがあります.以下に主な誤差要因を挙げます.

まず傾斜による影響があげられます.電子コンパスは,水平に保持するのが原則で,傾けて使用すると方位に誤差が生じます.これは,地磁気の垂直成分を拾うためです.傾斜を自動補正するには,3軸の磁気センサと,水平を検知する傾斜センサを組合せることで可能で、今後の課題の一つとなっています。
 次に環境からの外乱磁界の影響があります.エレベータ内のような磁気シールド効果のある場所では地磁気は弱く,逆に鉄道の架線のごく近くなどは比較的強い(といっても微弱な地磁気と比べての話ですが)外乱磁界が発生しています.これらの磁界が重畳することにより方位の誤差をもたらします.ただ,方位を知りたいのは屋外がほとんどであり,通常の使い方ではこれらの外乱磁界の心配はあまりないと言ってよいでしょう.

■電子コンパスの応用分野

 電子コンパスは,GPS付き携帯電話を使った歩行者ナビゲーションサービスへの応用で注目されています。これは電子コンパスによって進行方向を検知し,常に進行方向が画面の上になるように地図を自動回転表示する「ヘディングアップ機能」が実現できるからです。
 さらに電子コンパスは、自動車,バイク,レジャー用小型船舶などすべての移動体への応用が広がっていくと期待されています。また,傾斜センサと組合せることにより,方位,傾きなど姿勢が検知できるようになり,ロボット,カメラ,モバイル機器の入力支援など一層広範な応用も期待されています。

参考文献

1)   毛利佳年雄:磁気センサ理工学,コロナ社(1998)
2) 田所嘉昭:計測・センサ工学,オーム社(2000)
3) アイチ・マイクロ・インテリジェント梶FAMI201仕様書,http://www.aichi-mi.com/
4) 国土地理院のホームページ:http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/geomag/index.html